ある日の教室でのできごと。

いつも一人でもくもくとプリントを解いている男の子がいます。
 
その日も教室に来るとすぐ、取り掛かっていました。彼は3年生ですが6年生のところをやっているので、時々分からなくなってしまうことがあります。でも、まだ「ここが分かりません」と言葉で言えないところもあるので、スタッフの先生の前の席で、見守りながら学習しています。
 
その日、彼の席の周りには幼児さんも何人かいて、そちらの指導に対応している間に、彼はだんだんわからなくなってきていました。
その状態が続いて、彼自身がお手上げだ!と感じるとき、プリントを黒くしてしまったり、しわくちゃに丸めてしまうことが、これまでもありました。
それでも、普段彼がどんなことがあっても、最後の1問まで残さずやっていく子であること、教えられることをあまり好まず自分で見つけたいタイプであること、そして今までそこから立ち直る瞬間を何度も観てきたので、少し見守っていました。
 
少し経ってまた見に行くと、やはりプリントはしわくちゃにされていました。それも、今回はまっすぐなところがないくらい、くちゃくちゃに・・・
(ありゃ…)
と思いました。若いスタッフの先生も、彼の行動にどう対処したらいいものか困っています。
 
一般的な対応として、そんなことしないでがんばろうよ、とか、あと少しだよ、とかの叱咤・応援、または、今日はもうやめにしたら?の先送り提案も、今の彼には届かないだろうと感じました。単純に、そのしわくちゃになったプリントの行く末が気になり、聞いてみました。
 
「〇〇くん、それ、どうする?」
 
彼の返答は、意外でした。
ちょっとしわくちゃのプリントを眺めた後、落ち着いた声で、
「んー、家でやろうかなぁ・・・」
と、言ったのです。
プリントをこんなにしても、やる気は失っていない。
私はすごいな、と内心興奮してしまいました。
 
そして、「それじゃ、書けないから、新しいプリントだすよ、何番?」
と聞きます。
「Fの122番です」
こういう時も、彼自身の学習なので、私は分かっていても本人にその番号を聞きます。
そしてF122を渡すがいなや、普段の彼通りに、「見ててあげるから、やってみて…」という私のかけた言葉も聞こえていたか分からないくらい即座に取り掛かり、見事に全問正解したのです。
 
その後、いつものように(何事もなかったかのように…)、
「終わりました」
と持ってくる彼。すごい!!
子供持つの底力を見せてもらいました。
スタッフさんも大いに驚いて、「今日はもうだめかと思ってました!!」と言っていました。
 
こんなことがある教室。
 
だから、『子供に訊く』は大事なのです。
 
子供にはちゃんと意志があるから。
 
この彼のがんばりを応援できる、
つらそうな姿を見ながらも「やめたら?」ではなく応援できる親が、どれだけいるでしょうか。
 
世界には楽しいの連続だけではない。
苦しみの中にも楽しさを感じられる子になってほしい。
 
楽しいことばかりがいいと望まれているような世の中で、
こういう公文は否定的に語られる場もあるかもしれませんが、
大事な子供の力を育てていっているのではないかと、
時折思います。